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オレンジ色の血

餓鬼の頃、僕の血はオレンジ色だった。
酸素欠乏症という病が原因だった。
例えば、ナイフで切れた人差し指をチュウチュウと吸いながら僕は混血だからこんな色の血液なんだと5歳の頭で真剣に思っていた。
母は人並みはずれた苦労をしながら僕を育ててくれたが、それと引き換えにずっと一人ぽっちだった。うす暗い板の間に寝そべりながら水槽のおたまじゃくしを眺めているうちに眠りにつく毎日。
そして、母も僕が17という青春真っ盛りの時、この世を去った。卵巣癌という病と闘いながら、けっして安らかとはいえない最期だった。
それから、僕は自分のルーツが分からないままここまで生きてきた。
母は自分のプライドを守る為にあちこち移転した。だから、僕は引越しというものが定期的に訪れる行事みたいな感覚だったけど、僕の荷物はあまりにも少量になった。
ルーツを探すにも手がかりがない。そのうち、そういったことにも諦めがついたが代わりに自分の存在証明を遺す事に身を削るようになっていった。だから、僕は役者になった。
しかし、役者は演じていなければ死んだも同然だ。
地を這うように藁を摑むように苦しみ、もがき、そして、行きついた先は映画監督という職業だったのだ。これは必然といっていいだろう。
今はゲートが開かれる前に足踏みしている競走馬の気持ちだ。
来年の2月、いよいよメガホンを取ることが決まった。
これが、僕の存在理由である。
紛れもない、存在理由である。
by ricayaa | 2007-12-11 19:05


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